「原子力発電って安全なの? 危険なの? 結局どんな電源なの?」
そんな疑問に答えるため、仕組み・現状・メリット/デメリット・将来技術までを一つの記事にまとめました。エネルギー政策や環境問題を考えるうえで、ぜひ押さえておきたい基礎知識です。
監修
大手電力会社の原子力部門で10年以上にわたり規制対応を担当し、施工管理からプラント設計まで一貫して携わった経験を持つ原子力エンジニアが監修しています
1. 原子力発電の仕組み
- 核分裂で熱をつくる
濃縮ウラン(ウラン235を3〜5%まで高めた燃料)に中性子を当てると核分裂が起こり、大量の熱と新たな中性子が発生します。連鎖反応の速度は制御棒で調整し、安全に“ほどよい火加減”を保ちます。 - 蒸気でタービンを回す
原子炉でつくった熱で水を沸騰させ、発生した高温高圧の蒸気がタービンを回転させて発電機を駆動します。タービンを回し終えた蒸気は復水器で水に戻し、再び炉へ循環させる“蒸気サイクル”方式です。
2. 世界と日本の原子力発電の現状
2‑1. 世界の潮流
世界全体で原子力が担う割合は 約9% ですが、国によって依存度は 5%未満から 60%超まで大きく異なります。
- 運転中の原子炉は約400基、世界の総発電に占める比率は 約9%(2023年)。
- フランスは依存度約60%でトップ、アメリカは原子炉数世界一(93基)ながら総電力比は18%前後。
- 中国・インドなど新興国が建設を牽引し、脱炭素ニーズを背景に着工・計画数が増えています。
国・地域 | 原子炉数 | 原子力比率 |
---|---|---|
フランス | 56基 | 64.8% |
アメリカ | 93基 | 18.6% |
中国 | 55基 | 4.9% |
2‑2. 日本の現状
- 2011年の福島第一原発事故後、当時54基あった原子炉はすべて停止。その後、新規制基準に合格したプラントから段階的に再稼働。
- 2025年3月時点で14基が運転中(33基のうち)。原子力発電の電源構成比は数%台にとどまります。
- 政府は 2030年度に20〜22% へ戻す目標を掲げ、運転期間延長や次世代革新炉(SMR等)の導入も検討中です。
指標 | 世界 | 日本 |
---|---|---|
電力全体に占める原子力比率 | 約9%(2023年) | 数%台(14基再稼働) |
高依存国の例 | フランス:約60% | ― |
原子炉数 | 約30か国で400基超運転 | 33基のうち14基が再稼働済み |
3. 原子力発電のメリット
- 低炭素
原子力のライフサイクルCO₂排出量は 10〜15 g‑CO₂/kWh。石炭火力(約820 g/kWh)の 1/50以下 で、家庭1か月300 kWhを原子力に置き換えると約 240 kg のCO₂を削減できます。 - 大量かつ安定供給
設備利用率80〜90%。100万kW級プラント1基の年間発電量は 約80億 kWh—100万世帯(平均8,000 kWh/年)の年間使用量に相当し、天候に左右されません。 - 燃料のエネルギー密度が高い
ウラン235 1 gが核分裂で理論上 約22 MWh を生み出します。石炭1 g(約0.007 kWh)やLNG1 g(約0.014 kWh)の 200万〜300万倍。燃料量と貯蔵スペースを大幅に削減できます。 - 燃料価格の影響が小さい
ウラン燃料費は総発電コストの 5〜7%。仮にウラン価格が2倍になっても電気料金への影響は数%程度です。一度の燃料装荷で 12〜24か月 の連続運転が可能で、在庫リスクも小さく済みます。
4. 原子力発電のデメリット・課題と主な対策
課題 | 概要 | 主な対策・取り組み |
---|---|---|
重大事故リスク | 炉心溶融・放射能拡散など最悪シナリオの影響が大きい | 新規制基準で耐震・津波・電源喪失対策、フィルタベント+特定重大事故等対処施設で多重防護 |
高レベル放射性廃棄物 | 使用済み燃料のガラス固化体を数万年管理 | 地層処分:住民対話→文献・概要・精密調査を経て選定、地下300 mに多重バリア埋設 |
建設・廃炉コスト | 巨額の初期投資と長期の廃炉・賠償費用 | SMRなどモジュール化で工期短縮・初期投資3〜5割減、受動安全で運転費も圧縮 |
核不拡散・安全保障 | 核物質流用やテロリズムの脅威 | IAEA+追加議定書で計量管理、耐テロ施設と24時間監視で核セキュリティ強化 |
5. 進化する原子力:SMRと核融合
5‑1. 小型モジュール炉(SMR)
- 出力300 MW以下の小型炉。モジュール化による工場量産で工期短縮、kWあたり建設費を従来炉比で約30%削減(米NuScale試算)。
- 自然循環冷却など受動安全機能を備え、事故リスクを大幅に低減できると期待されています。
- 米NuScale、英Rolls‑Royce、中国・ロシアなどが開発を加速。日本でも高速炉や高温ガス炉型SMRの実証が進行中です。
5‑2. 核融合発電
- 重水素と三重水素を1億度以上で融合させる「太陽のしくみ」。燃料は海水から無尽蔵、CO₂ゼロ、暴走事故も起こりにくい“究極のクリーン電源”。
- 国際熱核融合実験炉(ITER)は建設遅延で2034年以降運転開始見込み。日本政府は 2030年代の発電実証 を国家戦略に掲げています。
6. まとめ
原子力発電は
- 低炭素で大量・安定供給できる電源
- 重大事故と廃棄物処分という大きな課題
- SMRや核融合など技術革新の可能性
という“光と影”を併せ持つ存在です。エネルギー安全保障と脱炭素を両立するために、リスクを最小化しつつメリットを最大限に活かせるか——社会の選択と技術の進歩が鍵を握ります。
もし原子力がなかったら、私たちの暮らしや脱炭素戦略はどう変わるでしょうか?
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