“原子核が割れると質量がエネルギーに変わる”――そんな教科書の一文を、たとえで腹落ちさせます。高校物理の範囲で核分裂のしくみ・スケール感・安全対策まで一気に理解しましょう。
監修
大手電力会社・原子力部門で10年以上規制対応を担当。
施工管理からプラント設計まで一貫して携わる 現役原子力エンジニアが監修しています。
1. 核分裂とは?
一言で:重い原子核が 2つの軽い原子核+数個の中性子+大量のエネルギー に変わる反応。
- 代表選手:ウラン235 (U-235)、プルトニウム239 (Pu-239)
- 自然界ではまれだが、原子炉では中性子を当てて意図的に誘発できる。
2. 原子核のしくみと質量欠損
2-1. 原子核の中身
構成粒子 | 記号 | 役割 |
---|---|---|
陽子 | p | 正電荷を持つ |
中性子 | n | 電荷ゼロ、核力の糊 |
2-2. 質量欠損 Δm
- 核になると**(陽子+中性子)** 単体の質量よりわずかに軽くなる。
- この質量差 Δm は、原子核を結びつける結合エネルギー として現れます。
鉄-56付近が“結合エネルギーの山頂”
- 軽い元素は**くっつく(核融合)**と山頂へ → エネルギー放出
- 重い元素は**割れる(核分裂)**と山頂へ → エネルギー放出
3. E=mc² を数字で体感
比較単位 | 発生エネルギー*1 | 差(核分裂 / 化学反応) |
---|---|---|
U-235 1原子の分裂 | ≈ 200 MeV ≈ 3 × 10⁻¹¹ J | ― |
石炭分子 1個の燃焼 | ≈ 4 eV ≈ 6 × 10⁻¹⁹ J | 約5,000万分の1 |
U-235 1 g の分裂 | ≈ 8 × 10¹³ J | ― |
石炭 1 g の燃焼 | ≈ 3 × 10⁴ J | 約300万分の1 |
*1 1 eV = 1.6 × 10⁻¹⁹ J
ここがポイント
- “1個”でも“1 g”でも桁違い──核分裂は化学反応の数百万〜数千万倍。
- 少量燃料で大電力を取り出せる反面、制御を失うと巨大な熱が瞬時に発生する。
4. ウラン235の連鎖反応 ― ドミノ倒しが加速!
- 中性子1個がU-235を割る。
- 中性子が2〜3個に増産され、エネルギーが放出。
- 増えた中性子が次のU-235を割り、指数関数的に拡大。
ステップ | 何が起こる? | 反応の増え方 |
---|---|---|
① トリガー | 中性子1個がU-235に衝突 | スタート |
② 分裂 | U-235 → 分裂片2個+中性子2〜3個+エネルギー | 最大3倍 |
③ 拡大 | 飛び出した中性子が次のU-235を割る | ドミノ倒し |
- 臨界:1回→1回(出力一定)
- 超臨界:1回→1回超(暴走)
- 亜臨界:1回→1回未満(停止)
原子炉は制御棒(ホウ素・カドミウム)で中性子を吸い、ほぼ臨界に保つ。
5. 核分裂発見ヒストリー
- 1938年:ハーンとシュトラスマンがウラン→バリウムを検出。
- 1939年:メイトナーとフリッシュが**“核分裂 (fission)”**と命名、理論的解釈を発表。
- 1942年:シカゴ大学で世界初の持続連鎖反応成功(フェルミ)。
6. エネルギー利用:発電・医療・宇宙探査
分野 | 具体例 | メリット |
---|---|---|
発電 | 軽水炉・高速炉 | CO₂フリー、安定供給 |
医療 | Tc-99m生成 | 画像診断に不可欠 |
宇宙 | 放射性同位体電池 (RTG) | 太陽光の届かない深宇宙探査 |
7. 課題と安全対策
課題 → リスク → 対策 | ★ポイント(実例) |
---|---|
反応暴走 → 出力オーバー → 制御棒・反応度係数 | 福島事故後、制御棒挿入速度を短縮 |
燃料溶融 → コア損傷 → 非常用注水系・受動冷却 | AP1000炉では自然循環で72時間冷却 |
廃棄物処理 → 10万年単位の管理 → ガラス固化体+地層処分 | オンカロ処分場(フィンランド)が先行 |
8. 高校生が覚えておくべき5キーワード
- 質量欠損
- 結合エネルギー
- E=mc²
- 臨界・超臨界・亜臨界
- 制御棒
9. まとめ
- 核分裂は**“重い原子核が割れて質量がエネルギーに変わる”**現象。
- U-235 1分裂で約200 MeVと中性子を放出し、連鎖反応で指数増幅。
- 人類は発電・医療・宇宙探査に活用する一方、暴走防止・冷却・廃棄物という課題と向き合う。
- 質量欠損・結合エネルギー・E=mc²を押さえれば、核分裂のエネルギー源がクリアに見える!
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