火力や再エネとはひと味違う “超高密度エネルギー” を生み出す原子力発電。本記事では 核分裂で熱を起こす → 蒸気をつくる → タービンを回す というシンプルな3ステップを中心に、はじめての方でもイメージできるよう図解付きで解説します。
監修
大手電力会社・原子力部門で10年以上規制対応を担当。
施工管理からプラント設計まで一貫して携わる 現役原子力エンジニアが監修しています。
1. 原子力発電のしくみ概略
原子炉内でウラン235が 核分裂 すると、大量の熱とともに平均 2〜3 個の中性子が放出されます。これらの中性子が周囲のウラン235 に衝突して 次々と新たな核分裂を引き起こす(連鎖反応) ことで、反応が自己増幅し続けます。原子炉では中性子を制御する 制御棒 を出し入れして中性子の数を緻密に調整し、連鎖反応を安定させ、熱の量をコントロールさせます。
その熱で水を沸騰させて蒸気を発生させ、タービン—発電機を回して電気を得る――これが原子力発電の基本構造です(図1参照)。
火力発電との違い
・熱源:化石燃料の燃焼ではなくウランの核分裂(約1 gで石油数トン分の熱量)
・CO₂排出:運転時にほぼゼロで温暖化対策に有利
・燃料補給:年単位で装荷し連続運転(火力は随時燃料投入)
2. 発電の流れ3ステップ
- 熱をつくる – ウラン燃料が核分裂し、約300 ℃の高温になる。
- 蒸気をつくる – 発生させた熱で原子炉内の水を加熱し、蒸気をつくる。
- 電気をつくる – 蒸気がタービンを高速回転させ、発電機で電気を生み出す。
タービンを回転させた蒸気は復水器で冷やされ水に戻り、再び原子炉へ循環。この 再循環 があるため、水資源の消費は少なくてすみます。
3. 代表的な炉型(PWR と BWR)の違い
PWR(加圧水型)は一次冷却水を高圧に保ち沸騰させずに熱を蒸気発生器へ伝える方式で、放射能を含む一次系がタービン系と分離されるのが特徴です。
BWR(沸騰水型)は炉心で直接水を沸騰させ、その蒸気をそのままタービンに送り込むシンプルな構造が特徴です。
項目 | PWR(加圧水型) | BWR(沸騰水型) |
---|---|---|
冷却水圧力 | 高圧・非沸騰 | 比較的低圧・沸騰 |
蒸気生成 | 蒸気発生器(一次→二次) | 炉心で直接沸騰 |
主な国内立地 | 高浜・伊方など | 柏崎刈羽・福島第二など |
長所 | 炉水放射能がタービン系に入らない | 系統がシンプルで機器点数が少ない |
短所 | 機器点数が多く建設費↑ | タービン建屋も線量管理必要 |
4. 原子炉を構成する主要機器と役割
原子炉は「燃料を燃やす炉心」と、その熱を安全に取り出すための冷却・遮蔽システムから成り立っています。ここでは発電と安全確保の要となる代表的な部位をまとめました。
部位 | 役割 | メモ |
燃料棒 | ウランペレットを封入。核分裂の“心臓” | 濃縮度:3〜5 % |
制御棒 | ホウ素や銀‐インジウム‐カドミウム合金など中性子吸収材。反応度調整 | 緊急時は一瞬で全挿入 |
一次冷却系 | 炉心の熱を取り出す高圧水(または液体金属等) | PWR は約15 MPaで加圧 |
蒸気発生器/圧力容器 | 熱交換で二次側に蒸気をつくる(PWR)/炉心直沸騰(BWR) | 配管破断に備え多重隔壁 |
格納容器 | 炉心を密閉し、万一の放射性物質漏えいを防ぐ最終防壁 | 厚鋼板+プレストレストコンクリート等 |
5. まとめ
- 原子力発電=核分裂で得た熱を蒸気タービンにつなげて電気を起こす装置
- 核燃料を年単位で使えるため、ベースロード電源として 24 時間安定運転が可能
- 次世代の 小型モジュール炉(SMR) や核融合開発など、さらなる安全性・柔軟性を目指した技術革新が進行中
参考資料
- 資源エネルギー庁『エネルギー白書2024』(日本の最新エネルギー需給バランス、電源構成の推移、脱炭素政策の進捗と課題を網羅的に解説した政府年次報告書)
- 日本原子力文化財団『原子力・エネルギー図面集』(原子力施設の構造図や放射線防護システムの模式図、発電統計をわかりやすく示した教育・広報用リファレンスブック)
- IAEA Power Reactor Information System (PRIS) データベース (2025年版)
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